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AIエージェントの導入、どう進める?
海外と日本の30社の事例からわかった、うまくいく会社の共通点

佐藤 大貴佐藤 大貴 公開 2026.10.24更新 2026.10.24
AIエージェントの導入、どう進める?海外と日本の30社の事例からわかった、うまくいく会社の共通点
この記事のポイント
  • AIエージェントを試す会社は多いが、全社で成果を出している会社はまだ少ない
  • うまくいく会社は、狭い業務から始め、人の承認を残し、業務の流れごと作り直している
  • 最初の稟議は試行として通し、続けるかやめるかを数字の基準で判断する

こんにちは、アースダイバー代表の佐藤です。アースダイバーでは、AIエージェントの導入のご相談を承っています。どの業務から始めるかの判断から、小さな試行、社内への展開まで、一緒に進めます(AIエージェントの導入を相談する)。

大企業のDX推進・AI推進のご担当者から、AIエージェントの導入についてご相談をいただくことが増えました。「どの業務から始めればいいか」「情報システムや法務など、関係部署をどう巻き込めばいいか」「稟議をどう通せばいいか」。聞かれることは、だいたいこの3つです。

この記事は、AIエージェントの導入を任された推進担当の方に向けて書いています。海外と日本の30社の事例と各国の調査をもとに、うまくいく企業の共通点、自社で進められるかを確かめる条件、導入の手順、稟議の資料と関係部署との進め方までをまとめました。

結論は、次の3つです。

  1. AIエージェントを試す企業は多いが、全社で成果を出している企業はまだ少ない
  2. うまくいく企業は、狭い業務から始め、人の承認を残し、業務の流れごと作り直している
  3. 最初の稟議は試行として通し、続けるかやめるかを数字の基準で判断する
目次
  1. 1AIエージェントとは:目標を渡すと、手順を自分で選んで仕事を進めるAI
  2. 2導入の現状:試す企業は多いが、全社で成果を出す企業はまだ少ない
  3. 3海外の事例:社内向けは成果が出て、顧客向けは撤回が目立つ
  4. 4国内の事例:社内の業務から広がっている
  5. 5成功企業の共通点:狭く始めて、人の承認を残し、業務ごと作り直す
  6. 6自社の準備度:6つの条件で、進められる部門を見きわめる
  7. 7AIエージェント導入の進め方:7つの手順で、自律の度合いを段階的に上げる
  8. 8期間・体制・費用:試行は2〜4週間、全社展開は1〜2年以上
  9. 9社内の合意形成:稟議は試行から通し、関係部署を早く巻き込む
  10. 10AIエージェントの部門別の使い方:判断が要り、正解の基準がある業務から始める
  11. 11今後の見立て:承認つきが主流になり、推進部門が業務の作り直しを担う
  12. 12まとめ
  13. 13よくある質問
AIエージェントの導入を、コンサルタントに相談する →

AIエージェントとは:目標を渡すと、手順を自分で選んで仕事を進めるAI

AIエージェントは、目標を渡すと、使う道具や手順を自分で選んで、仕事を最後まで進めるAIです。OpenAIは、実装ガイドで「あなたの代わりに、自分でタスクを成し遂げるシステム」と定義しています(OpenAI)。日本の「AI事業者ガイドライン」も、2026年3月の第1.2版でAIエージェントの定義を初めて加え、「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステム」としました(総務省・経済産業省)。

社内で説明するときは、似た仕組みとの違いを先に示すと伝わりやすくなります。

図1:AIエージェントと、似た仕組みの違い

チャットボットや生成AIのアシスタントは、人が聞いたことに答えます。RPAとワークフローの自動化は、人が決めた手順をそのとおりに実行します。AIエージェントは、目標に向けて手順そのものを組み立て、システムの操作まで進めます。

ただし、エージェントが向かない業務もあります。Microsoftは開発者向けの資料で「関数で書けるタスクは、関数で処理してください」と書いています(Microsoft)。手順が決まっている業務なら、RPAやワークフローのほうが安く、確実です。ベンダーの提案を見るときも注意が要ります。ガートナーは、既存のチャットボットやRPAを「エージェント」と言い換えて売る動きを「エージェント・ウォッシング」と呼び、実体のあるエージェントを扱うベンダーは約130社と推計しています(Gartner)。

導入の現状:試す企業は多いが、全社で成果を出す企業はまだ少ない

導入率は、調査によって大きく違います。「試している」「本番で使っている」「人の承認なしで動かしている」のどこを数えるかで、数字が変わるからです。社内で数字を引用するときは、どの段階の数字かを添えてください。

図2:AIエージェント導入の段階と、各調査の数字

手をつけている企業は多くあります。KPMGが2026年9月に発表した、売上10億ドル以上の米国企業の幹部314人への調査では、62%がエージェントを構築・開発・展開していると答えました(KPMG)。本番で使う段階になると、ガートナーの2026年のCIO調査では、展開済みの組織は17%(Gartner)、業務で広げている段階では、マッキンゼーの2026年の調査で、売上10億ドル超の大企業の40%でした(McKinsey)。ベインの2026年の調査(951社)では、本番の運用で最も多いのは人の承認を必須にする形で38%、完全に自律させている企業は7%です(Bain)。

日本では、まだ検討や情報収集の段階にある企業が多くを占めます。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2026」の速報値(957社)では、AIエージェントを「検討中」の企業が31.2%で、調べた技術の中でいちばん高い割合でした(JUAS)。矢野経済研究所が生成AIを使う215社に聞いた調査では、利用中は3.3%でした(矢野経済研究所)。

図3:生成AIを使う日本企業の、AIエージェントへの取り組み

失敗の予測も出ています。ガートナーは、エージェント型AIのプロジェクトの40%超が、2027年末までに中止されると予測しています。理由は、コストの高騰・価値の不明確さ・リスク管理の不足です(Gartner)。2026年9月には、2028年までに企業の70%が、ベンダーの派遣したエンジニアにつくらせたエージェント型AIを放棄するという予測も出しました。コストが膨らみ、自社で直せないことが理由です(Gartner)。この3つの理由は、後で書く稟議の組み立て方で、あらかじめ手を打てます。

海外の事例:社内向けは成果が出て、顧客向けは撤回が目立つ

海外では、エージェントやAIアシスタントを本番で動かし、数字を公表する企業が増えました。

会社業務成果進め方
Salesforce(米国)自社のサポート顧客との会話500万件超、63%超をその場で解決(Salesforce)認証済みの利用者200人・4週間の試行から始めた
Air India(インド)問い合わせ対応400万件超の問い合わせの97%をAIが処理(Microsoft)顧客は人の対応も選べる
IBM(米国)人事の問い合わせよくある質問の94%をAIで完結(IBM)定型はAI、複雑な案件は人
Amazon(米国)ソフトウェアの移行4,500年分を超える開発作業を省き、年2.6億ドル(約410億円)を削減(AWS)開発者がエージェントの計画を見て直す
Ramp(米国)経費の承認ポリシー違反の検出が従来の15倍。人の判断に回すのは10〜15%(Ramp)判断ごとに根拠を記録
Walmart(米国)調達の交渉カナダでサプライヤー89社を相手に3か月試行し、64%と合意(Harvard PON)店舗で使う物品から始め、3か国に広げた
Morgan Stanley(米国)営業担当の支援社内のAIアシスタントを、アドバイザーのチームの98%が利用(Morgan Stanley)メールの下書きは担当者が直し、送るかも本人が決める
BBVA(スペイン)社員の業務支援1.1万人の段階で週約3時間の節約(OpenAI)3,300人→1.1万人と広げ、12万人に広げる計画
JPMorgan Chase(米国)ソフトウェア開発数万人のエンジニアの生産性が10〜20%向上(Yahoo Finance)社内のツールとして提供
Kaiser Permanente(米国)診療記録の作成医師7,260人が使い、15か月で記録の時間を約1.6万時間削減(Becker's)医師が記録の中身を確かめる
Lowe's(米国)買い物の相談AIを使う顧客の購入率が3倍(Distribution Strategy)顧客向けと従業員向けを分けて提供

表には、エージェントと呼ぶ前の段階の生成AIのアシスタントも含みます。どれも会社やベンダーの発表で、測り方が開示されていないものもあります。

一方で、導入をやめたり、人に戻したりした企業もあります。

会社何が起きたか
Klarna(スウェーデン)2024年に顧客対応のチャットの多くをAIに任せた。2025年、CEOのセバスチャン・シミアトコウスキー氏は品質が低かったと認め、人の採用を再開した(Entrepreneur)
Commonwealth Bank of Australia(豪州)音声ボットを理由に45人を減らすと発表したが、問い合わせはむしろ増えた。2025年8月に判断の誤りを認めて撤回し、謝罪した(ACS Information Age)
McDonald's(米国)IBMと組んだドライブスルーの音声注文を、100店超で試したあと2024年7月に終了した(NBC New York)
Taco Bell(米国)音声AIに水1万8,000杯を頼むいたずらの注文などが入り、どの場面で使うかを見直している(Computing)
Air Canada(カナダ)チャットボットが運賃の規定を誤って案内し、2024年に審判所が支払いを命じた。会社はチャットボットの案内にも責任を負うと判断された(MobileSyrup)
DPD(英国)システム更新のあと、チャットボットが不適切な言葉を返し、AIの部分をすぐに止めた(TechSpot)

成果と撤回を「社内向けか、顧客向けか」で並べると、傾向がはっきりします。

図4:海外の事例を、社内向け・顧客向けと、成果・撤回で並べた

撤回や失敗は、顧客と直接やりとりする場面に集まっていました。社内の業務を支援する事例では、撤回を公表した例は見つかりませんでした。ただし、社内の失敗は外に出にくい点には注意が要ります。

国内の事例:社内の業務から広がっている

日本でも、本番で使い、数字を出す企業が出てきました。多くは社内の業務から始めています。社内で事例を紹介するときは、自社に近い業種・業務の事例を選ぶと、関係部署の理解を得やすくなります。

会社業務成果進め方
日立製作所品質保証事例検索が60分から5分、原因分析が16時間から3時間に(日立)熟練者の100件を超える知見を組み込み、自社の工場で先に使ってから外販
みずほフィナンシャルグループ法人営業の提案実証で業務時間を41.8%削減(DIGITAL X)部門ごとの権限管理とログの一元管理を整えて展開
NTTドコモネットワークの保守対応時間を50%以上削減(NTTドコモ)2026年2月に商用利用を開始
NTTドコモソリューションズネットワークの故障解析障害からの復旧時間を34%削減(ITmedia)1体で何でもこなす形はうまくいかず、監督役・情報収集役・実行役に分けた。コマンドの実行は人が承認
NEC経営会議の資料の分析試行で、かかる時間が約7分の1に(ビジネス+IT)2026年8月に専任の部門を設置。最終判断・品質・ガバナンスは人が持つ
伊藤忠商事事業投資の調査と投資の申請生成AIの基盤全体で、グループ2.6万人超が使い、年227万時間超を削減(Microsoft)小さく始めて管理の仕組みを広げる。今後1〜2年で、自律型のエージェントを全社に広げる(ITmedia)
パナソニック コネクト社内のAI全般2025年度に78.8万時間を削減(総労働時間の3.4%)(クラウドWatch)「聞く」から「頼む」へ。社内のデータとつないで経理・営業に広げる
KDDI窓口のチャット支援応対時間を約70%削減する見込み(KDDI)一部の拠点で導入し、グループに広げる
三菱UFJ銀行提案書の作成と営業の支援提案書の自動作成で、年約20万時間の創出を目指す(PR TIMES)営業担当向けのエージェントは2025年8月に選定し、約6か月の構築を経て2026年3月に本稼働(Salesforce)
サイバーエージェント広告の運用化粧品2社の先行導入で、コンバージョン数が56%増(サイバーエージェント)2週間の先行導入を経て提供を開始

ソフトバンクは、全社員に1人100個のエージェントをつくるよう求め、2か月半で250万個を超えました(ソフトバンクニュース)。ただ、多くは実務で使えず、その後「量から質」へ方針を変えたと報じられています(ビジネス+IT)。推進の目標を、つくった数で置くと起きやすいことです。

成功企業の共通点:狭く始めて、人の承認を残し、業務ごと作り直す

海外と日本の事例、各国の調査を合わせて読むと、うまくいく企業には7つの共通点があります。

図5:AIエージェントの導入がうまくいく会社の、7つの共通点

1. 狭い業務・少ない人数から始め、段階的に広げる

Salesforceは200人・4週間、Telstraは現場の200人から始めました(Telstra)。BBVAは3,300人から1.1万人へ広げています。最初から全社に入れて、エージェントの成果を数字で示した事例は、今回の調査では見つかりませんでした。

2. 社内の業務支援から入り、顧客向けは後にする

成果を出した事例の多くは、社員の仕事を助ける使い方です。顧客向けは、誤った案内がそのまま会社の責任になります。Air Canadaの判断がその例です。

3. 正解の基準がはっきりした、範囲の狭い業務ほど成果が出る

Amazonのソフトウェア移行、Rampの経費の判定、IBMの人事の質問、日立の品質保証は、どれも何が正解かの基準がはっきりしています。一方で、入ってくる書類や状況は毎回違うので、決まった手順だけでは処理しきれません。この組み合わせが、エージェントの成果が出やすい業務です。

4. 業務の流れごと作り直す

マッキンゼーの2026年の調査(AI全般)では、AIで利益に大きな成果を出している企業(全体の約6%)のうち、約4分の3が業務の流れを根本から作り直していました。それ以外の企業では約4分の1です(McKinsey)。マッキンゼーは50件以上の構築を振り返った記事でも、最初の教訓として、ワークフロー(業務の流れ)の設計が最も大事だと書いています(McKinsey)。

5. 人の承認と、人への引き継ぎを残す

Rampは判断の10〜15%を人に回し、NTTドコモソリューションズはコマンドの実行を人が承認する形にしました。ベインの調査でも、本番で最も多いのは人の承認を必須にする形です。

6. 1体に何でもやらせない

OpenAIのガイドは、まずひとつのエージェントの能力を引き出すことを勧めています(OpenAI)。NTTドコモソリューションズのように、仕事が増えたら役割ごとに分けます。

7. 人を減らす前に、品質を確かめる

KlarnaとCommonwealth Bank of Australiaは、人を減らしたあとで問題が出て、方針を戻しました。2026年の報道では、Forresterの調査として、AIを理由に人を減らした雇用主の55%が後悔していると伝えられています(The Washington Times)。ServiceNowのように、空いた人手を高度な業務に回す企業もあります(Computing)。

自社の準備度:6つの条件で、進められる部門を見きわめる

海外の事例は前提が違うので、そのまま自社に当てはめるのは難しいところがあります。そこで、日本の調査と事例をもとに、推進担当の方が最初の1件を選ぶ前に、社内の状況を確かめる目安をまとめました。

まず、日本企業の状況です。

図6:日本企業の状況

帝国データバンクが2026年3月に1万312社に聞いた調査では、生成AIを業務で活用している大企業は46.5%でした(ITmedia)。使っている企業でも、成果の実感はまだ弱い状態です。PwC Japanの2026年の調査では、生成AIの効果が「期待を大きく上回る」と答えた割合が、日本は9%、米国は38%でした(PwC Japan)。アクセンチュアの2026年の調査でも、全社的な成果を実感している日本企業は13%で、世界の23%を下回りました(@IT)。野村総合研究所の調査では、生成AIの課題として「リテラシー・スキル不足」を挙げた企業が70.3%にのぼります(野村総合研究所)。

AIエージェントは、生成AIを使って動く仕組みです。生成AIを使いこなしていない部門に、いきなりエージェントを入れても、評価や改善を担う人がいません。日本の事例と、前の節の共通点、AI事業者ガイドラインをもとに、導入の前に確かめたい条件を6つに整理しました。

図7:自社で導入できそうかを確かめる、6つの条件

対象の部門で6つのうち5つ以上が当てはまれば、社内の業務から1件を選び、試行の稟議に進めます。3〜4つなら、足りない条件を整えながら、エージェントが情報を集めて見せるだけの使い方から試します。2つ以下なら、まず生成AIの社内活用と、データの整理から始めます。当てはまる数の区切りは、私の目安です。

グループ会社や事業部が多い企業では、条件の当てはまり方が部門ごとに違います。全社でそろう前でも、条件を満たす部門から試し、そこで得た評価の方法と利用ルールを、他の部門に広げていくのが現実的です。

AIエージェントの導入について、コンサルタントに相談する →

AIエージェント導入の進め方:7つの手順で、自律の度合いを段階的に上げる

共通点と、各社が公開している実装のガイドをもとに、導入の手順を7つにまとめました。

図8:AIエージェント導入の7つの手順

手順1 エージェントが要る業務かを判定し、最初の1件を選ぶ

大企業では、各部門から候補が数多く上がります。推進担当は、まずエージェントが本当に要る業務かを判定します。OpenAIのガイドは、向く業務の条件を3つ挙げています。判断が複雑なこと、ルールが多くて保守が難しいこと、文書やメールのような形の決まっていないデータを多く扱うことです。どれにも当てはまらなければ、決まった手順で動く仕組みで足りるとしています(OpenAI)。この条件を、候補の振り分けに使える問いに置き換えたのが図9です。

図9:その業務に、AIエージェントは要るか

最初の1件は、影響が社内にとどまり、間違えても人が直せる業務から選びます。経費の確認・社内の問い合わせ対応・資料の下調べ・提案書の下書きなどが、選ばれやすい業務です。

手順2 業務の流れを描き直し、指標を決める

選んだ業務を、エージェントが入る前提で描き直します。どの作業をエージェントに任せ、どこで人が確かめ、どこで人に引き継ぐかを、1枚の図にします。

図10:業務の流れを描き直す(経費の確認の例)

図10は、Rampの事例を参考にした、経費の確認の架空の例です。担当者が全件を確かめている流れを、エージェントが全件を規程と照らし、違反の疑いがあるものだけを人に回す流れに変えます。最後の承認は人に残ります。あわせて、図の下にあるような指標を決め、導入前の数字を測っておきます。

手順3 自律の度合いと、権限を決める

次に、エージェントにどこまで任せるかを決めます。AWSは、自律の度合いを4段階に分けています(AWS)。

図11:AIエージェントの自律の4段階

AWSは、読むだけの段階や、人の承認つきで動く段階から始め、異常を見つけたら自律の度合いを自動で下げることを勧めています。権限は、仕事に必要な最小限にします。AI事業者ガイドライン第1.2版も、つなぐツールやシステムを制限し、権限を適切に設定することを求めています(総務省・経済産業省)。エージェントごとにIDを持たせ、どのエージェントが何をしたかを追えるようにします。

基幹システム(ERPや会計など)に書き込む場合は、情報システム部門の変更管理と権限申請の手順に乗せます。最初の試行は基幹システムを読むだけにとどめると、社内の確認が短く済みます。

手順4 データとセキュリティを整える

エージェントは、メール・ウェブページ・社内の文書を読んで動きます。そのため、文書の中に隠された指示に従ってしまう「プロンプトインジェクション」が大きなリスクになります。米国立標準技術研究所(NIST)の検証環境では、エージェントの乗っ取りを狙う新しい攻撃の成功率が81%に達しました(NIST)。OpenAIも、プロンプトインジェクションは何年も取り組みが続く課題だと書いています(OpenAI)。

セキュリティの団体OWASPは、2025年12月に、エージェント型のアプリの10大リスクを公表しました(OWASP)。主なものを、情報セキュリティの部署と確かめる項目に置き換えると、次のようになります。

図12:導入前に確かめたい、AIエージェントのセキュリティ

あわせて、エージェントが読むデータを整えます。データの準備や連携を課題に挙げる企業は多く、IBMの調査では49%(IBM)、ベインの調査では41%でした。

手順5 小さく試し、評価の仕組みをつくる

最初の試行は、少人数・短期間で行います。Salesforceやサイバーエージェントのように、2〜4週間がひとつの目安です。

試行では、答えの正しさを測る「評価」の仕組みをつくります。正解のわかっている課題を数十件用意し、エージェントの結果と比べます。OpenAIのガイドは、まず最も性能の高いモデルで基準をつくり、精度が落ちない範囲で安いモデルに置き換えることを勧めています。

図13:小さく試して評価し、人の承認を組み込む

手順6 人の承認と、記録を組み込む

本番に入る前に、人が介入する場面を決めます。OpenAIのガイドは、2つの場面で人に引き継ぐよう勧めています。失敗やくり返しが一定の回数を超えたときと、注文の取り消し・大きな返金・支払いのように、取り消せない行動や影響の大きい行動をとるときです。

判断と行動は、すべて記録に残します。Rampは判断ごとに根拠を記録し、みずほフィナンシャルグループはログを一元管理しています。経費や支払いのように、内部監査やJ-SOX(内部統制の報告制度)の対象になる業務では、記録する項目と保存期間を、試行の前に監査部門とすり合わせておきます。

手順7 費用を見ながら広げ、管理の仕組みをつくる

広げる段階では、利用量に応じた費用の上限を決め、エージェントごとの費用を毎月見ます。社内のエージェントが増えてきたら、どこに何がいるかを管理する台帳をつくります。Microsoftは、エージェントごとにIDを割り当てて管理する「Agent 365」を2025年11月に発表しました(Computerworld)。エージェントと社内のシステムをつなぐ規格のMCPと、エージェントどうしをつなぐ規格のA2Aも、Linux Foundationのもとで整ってきています(Linux Foundation・Google)。

グループ会社を含めて広げる場合は、台帳と利用ルールを本社で一本化し、各社の情報システム部門が同じ基準でエージェントを登録・停止できるようにします。ひとつの部門で成果が出たら、評価の課題・承認の手順・費用の測り方を共通の手順書にまとめ、似た業務を持つ部門に渡します。2件目以降の稟議と社内の確認が短く済みます。

AIエージェントの導入について、コンサルタントに相談する →

期間・体制・費用:試行は2〜4週間、全社展開は1〜2年以上

推進担当の方が社内で説明を求められることの多い目安を、事例をもとにまとめます。

項目目安根拠になる事例
試行の期間2〜4週間Salesforceの4週間、サイバーエージェントの2週間
本稼働までの期間選定から半年強三菱UFJ銀行の営業担当向けは、2025年8月に選定し、約6か月の構築を経て2026年3月に本稼働
全社への展開1〜2年以上(計画を含む)BBVAは2024年5月の3,300人から段階的に拡大。伊藤忠商事は今後1〜2年で自律型のエージェントを全社に広げる

体制は、次のような役割分担が基本になります。事例と各社のガイドをもとにした、私の考え方です。

役割担うこと
経営(スポンサー)予算を承認し、部門をまたぐ判断を下す
AI推進部門全社の基盤・利用ルール・評価の方法をそろえ、各部門の試行を支える。関係部署との調整の窓口になる
業務部門業務の流れを描き直し、正解の基準と評価の課題をつくる。承認を担う
情報システムエージェントの構築・接続・ID・ログ・費用の管理
セキュリティ・法務権限とデータの範囲、顧客向けの案内の責任、個人情報の扱いを確かめる
内部監査承認の手順と記録の残し方が、監査の要件を満たすかを確かめる
外部の支援設計と最初の構築を支え、運用の手順を社内に残す

費用は、ライセンスの料金だけでは見積もれません。ガートナーのレポートを紹介するElasticの資料も、システムとの接続・管理の仕組み・データの整備・業務の変更までを含めて見積もる必要があるとしています(Elastic)。ライセンスの料金の形は、主に次の4つです。

料金の形例
利用者1人あたりSalesforce Agentforceの営業・サービス向けは1人月125ドル(約2万円)(Salesforce)。Microsoft 365 Copilotは1人月30ドル(約4,700円)(Microsoft)
会話1件あたりSalesforce Agentforceは1会話2ドル(約320円)
行動・クレジットあたりSalesforce Agentforceは1アクション20クレジット(約0.1ドル、約16円)。Microsoft Copilot Studioは2万5,000クレジットで月200ドル(約3.2万円)
処理した量(トークン)あたり自社で開発する場合の、AIモデルのAPIの利用料

為替は1ドル158円で計算。料金は2026年10月時点の公開情報。

量で課金される形は、使う量が増えると費用が読みにくくなります。試行の段階で1件あたりの費用を測り、広げたときの費用と効果を見積もるのが確実です。

社内の合意形成:稟議は試行から通し、関係部署を早く巻き込む

AIエージェントの導入でつまずきやすいのが、社内の合意形成です。前例が少なく、情報システム・法務・セキュリティ・監査・現場と、関わる部署も多くなります。稟議の資料と、関係部署との進め方をまとめます。

1. 稟議は試行から通し、8つの項目でまとめる

最初の稟議は、試行の稟議にするのがおすすめです。金額が小さく、続けるかやめるかの基準を先に決めておけるので、承認する側も判断しやすくなります。資料には、次の8つを入れます。

図14:AIエージェントの試行の稟議に入れる8つの項目

いちばん大事なのは、7つ目の「続けるか・やめるかの基準」です。「4週間の試行で、正しく処理した割合が9割以上、1件あたりの確認時間が半分以下になれば、対象を広げる」のように、数字で書いておきます。ガートナーが中止の理由に挙げた「価値の不明確さ」と「コストの高騰」は、この基準を先に決めておくことで、早い段階で見えるようになります。費用は、試行・本稼働・運用の3つに分け、今回の決裁は試行分だけにします。

大企業では、情報システム・法務・セキュリティ・監査の部署が事前に確認してから決裁に上がることが多くあります。各部署の確認欄と確認日を資料に入れておくと、差し戻しが減ります。

この8つの項目を、10枚のスライドの記入例にしました。経費の確認にエージェントを試す、架空の会社の例です。数字と日付は架空で、「○○」の部分には自社の数字を入れてください。

稟議資料の記入例 1/10:表紙
稟議資料の記入例 2/10:要旨
稟議資料の記入例 3/10:背景
稟議資料の記入例 4/10:対象の業務の選定
稟議資料の記入例 5/10:現状の業務
稟議資料の記入例 6/10:導入後の業務の流れ
稟議資料の記入例 7/10:自律の段階と権限
稟議資料の記入例 8/10:リスクと対策
稟議資料の記入例 9/10:費用と効果
稟議資料の記入例 10/10:試行の計画と判断の基準

2. 関係部署とは、決める順番をそろえて進める

後から関係部署に相談すると、それまでの検討をやり直すことになりがちです。推進担当が窓口になり、決める順番をそろえて、早い段階から関わってもらいます。

図15:推進担当が、関係部署と決める順番

なかでも、情報システムと法務には、業務を選んだ直後から入ってもらいます。個人情報保護委員会は、生成AIに個人情報を入力するときは、利用目的の範囲内かを十分に確かめ、提供事業者が機械学習に使わないことを確かめるよう注意を呼びかけています(牛島総合法律事務所)。デジタル庁の生成AIのガイドラインも、利用者がAIエージェントをつくれる仕組みを入れる場合は、利用のルールを整えるよう求めています(デジタル庁)。社内の利用ルールをこの段階で決めておくと、他の部門への展開が速くなります。

人の配置への影響がある場合は、試行の前に人事と方針を決め、現場に説明しておきます。「空いた時間を何に使うか」を先に示すと、現場の協力も得やすくなります。

3. よく出る懸念には、先に答えを用意する

社内の議論では、だいたい同じ懸念が出ます。資料の段階で答えを用意しておくと、議論が進みやすくなります。

よく出る懸念用意しておく答え
情報が漏れないか入力したデータが学習に使われない設定か、どのデータを渡すかの範囲、ログの保存先
間違えたら誰の責任か承認する人と、引き継ぐ先。判断と行動の記録の残し方
費用が読めない試行で測る1件あたりの費用と、利用量の上限
仕事がなくなるのでは人を減らす前に品質を確かめること。空いた時間の使い道
製品がすぐ古くなるのでは共通の規格(MCP・A2A)に対応した製品を選ぶこと。設計と運用の手順を社内に残すこと
現場が使わないのでは試行に現場の担当者を入れ、正解の基準と評価の課題を現場でつくること
AIエージェントの導入について、コンサルタントに相談する →

AIエージェントの部門別の使い方:判断が要り、正解の基準がある業務から始める

各部門から候補を集めるときの参考に、部門ごとの使い方を事例と合わせてまとめます。

部門使い方の例事例
カスタマーサポートよくある問い合わせに答え、手続きが必要なものや判断に迷うものは担当者に引き継ぐSalesforce・Air India・KDDI
営業顧客の情報や過去の取引を下調べし、提案書の下書きをつくる。担当者が直して使う三菱UFJ銀行・みずほフィナンシャルグループ・Morgan Stanley
マーケティング広告の配信設定や予算の配分を、成果を見ながら調整するサイバーエージェント
開発古いコードを新しい版に移す計画を立て、修正案をつくる。開発者が計画を見て直すAmazon・JPMorgan Chase
IT運用・保守障害の情報を集めて原因を絞り込み、復旧の手順を提案する。実行は人が承認するNTTドコモ・NTTドコモソリューションズ
経理・財務経費の申請を規程と照らし、違反の疑いがあるものだけを人に回すRamp
人事休暇や制度についての社員の質問に答え、手続きまで進めるIBM
調達店舗で使う物品などの条件を、サプライヤーと交渉するWalmart
品質保証・製造過去の不具合の事例を探し、原因の分析と報告書の下書きをつくる日立製作所
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今後の見立て:承認つきが主流になり、推進部門が業務の作り直しを担う

ここまでの事例と調査をふまえて、今後についての私の見立てを書きます。

図16:AIエージェントの導入についての、私の見立て

1. 当面は、人の承認つきのエージェントが主流になる

完全に自律したエージェントを本番で動かしている企業は、ベインの調査で7%です。ガートナーの2025年の調査でも、完全に自律したエージェントを検討・試行・展開しているのは、ITアプリケーション部門のリーダーの15%でした(Gartner)。エージェントが下書きと提案をつくり、人が承認する形が、当面の主流になると考えています。

2. 推進部門は、部門をまたいだ業務の作り直しを担う

業務の流れを変えるには、部門をまたいだ判断が要ります。現場が個別にエージェントをつくるだけでは、いまの業務の一部が速くなるところで止まります。推進部門が経営の支援を得て、部門をまたいだ作り直しの取りまとめ役を担うことが、成果を左右すると考えています。推進の目標も、置き換えた業務と削減した時間で立てるのがよいと考えています。

3. 外部の力を借りても、運用は自社に残す

最初の設計や構築で、外部の力を借りることは自然です。ただ、エージェントは入れたあとも、評価と改善をくり返す必要があります。直す人が社内にいなければ、ガートナーの予測のように、使われなくなるおそれがあります。

まとめ

AIエージェントは、目標に向けて手順を自分で組み立てるAIです。試す企業は多い一方で、全社で成果を出している企業は少なく、日本ではまだ検討や情報収集の段階の企業が多くを占めます。

うまくいく企業は、狭い社内の業務から始め、人の承認を残し、業務の流れごと作り直していました。推進担当の方は、6つの条件で進められる部門を見きわめ、エージェントが要る業務を1件選び、試行の稟議として通すところから始めてください。

調査の概要

項目内容
言語英語・日本語
資料の数65件
資料の種類調査会社や研究機関の報告書・企業の発表や決算資料・政府のガイドライン・報道
確かめ方数字は、できる限り一次資料で確かめた。一次資料を確認できなかったものは、報道の媒体名を出典に示した
数字の扱い事例の数字の多くは、導入した会社やベンダーの発表。目標や見込みの数字も含む
情報の時点2026年10月19日

アースダイバーでは、AIエージェントの導入に向けた、国内外の事例や製品の調査も承っています(ご相談はこちら)。

よくある質問

Q. 既製品を使うか、自社で開発するかは、どう決めればよいですか?
まず、全社で使う生成AIやエージェントの基盤がすでにあれば、その上でつくれるかを情報システム部門と確かめます。部門ごとに別の製品を入れると、ID・ログ・費用の管理が分かれてしまいます。次に、すでに使っている業務システムに、エージェントの機能が組み込まれていないかを確かめます。既製品で対象の業務が回るなら、そこから試すのが早く、費用も読みやすくなります。社内の複数のシステムをまたぐ業務や、自社に固有の判断が多い業務は、開発を検討します。その場合も、共通の規格に対応しているか、自社で直せる形かを確かめます。

Q. ベンダーや支援会社を選ぶときは、何を確かめればよいですか?
3つを確かめます。まず、提案がエージェントの名前を借りた既存のチャットボットやRPAでないかです。次に、試行の段階で、評価の方法と、続けるかやめるかの基準を一緒に決めてくれるかです。最後に、設計の考え方や運用の手順を、社内に引き継ぐ前提になっているかです。

Q. 個人情報や、顧客の機密情報を扱ってもよいですか?
扱えますが、事前の確認が要ります。入力したデータが学習に使われない設定か、データがどの国のどこに保存されるか、顧客との契約で第三者への提供が制限されていないかを確かめます。個人情報は、利用目的の範囲内かを確かめます。最初の試行は、個人情報や機密情報を含まない業務から選ぶと、社内の確認が短く済みます。

Q. 試行で効果が出なかったときは、どう判断すればよいですか?
稟議の段階で決めた基準で判断します。基準に届かなかった場合は、原因を3つに分けて見ます。業務の選び方の問題か、データや正解の基準の問題か、製品やモデルの問題かです。業務の選び方の問題なら、別の業務で試し直します。データの問題なら、データを整えてから再び試します。製品やモデルの問題なら、同じ評価の課題で、別のモデルや製品と比べます。

Q. 社員への説明は、どうすればよいですか?
試行の前に、目的と、人の仕事がどう変わるかを説明します。エージェントがやる作業と、人が確かめて決める作業を分けて示すと、伝わりやすくなります。人の配置を変える場合は、空いた時間を何に使うかもあわせて示します。

Q. 海外の拠点や顧客がある場合、気をつける規制はありますか?
EUで事業をしている場合は、EUのAI法を確かめます。AIと対話していることを相手に知らせる透明性の義務は2026年8月から適用されています。採用や与信など、高リスクとされる用途の規制は、2027年12月まで適用が延びました(Lewis Silkin)。顧客向けにエージェントを使う場合や、人事・与信の判断に使う場合は、法務と早めに確認します。

参考:OpenAI/総務省・経済産業省/Microsoft/Gartner/KPMG/Gartner/McKinsey/Bain/JUAS/矢野経済研究所/Gartner/Salesforce/Microsoft/IBM/AWS/Ramp/Harvard PON/Morgan Stanley/OpenAI/Yahoo Finance/Becker's/Distribution Strategy/Entrepreneur/ACS Information Age/NBC New York/Computing/MobileSyrup/TechSpot/日立/DIGITAL X/NTTドコモ/ITmedia/ビジネス+IT/Microsoft/ITmedia/クラウドWatch/KDDI/PR TIMES/Salesforce/サイバーエージェント/ソフトバンクニュース/ビジネス+IT/Telstra/McKinsey/The Washington Times/Computing/ITmedia/PwC Japan/@IT/野村総合研究所/AWS/NIST/OpenAI/OWASP/IBM/Computerworld/Linux Foundation/Google/Elastic/Salesforce/Microsoft/牛島総合法律事務所/デジタル庁/Gartner/Lewis Silkin

佐藤 大貴 WRITTEN BY佐藤 大貴アースダイバー株式会社 代表取締役DeNAで男性向けライフスタイルメディアの立ち上げを牽引し、ローンチから約1年半で月間3,000万PV規模に。ポートではコンテンツマーケティング責任者として幅広い領域のメディアを管掌し、上場とM&Aを経験。2019年に創業し、AI時代のマーケティング戦略とその実行を手がける。プロフィールを見る →LinkedIn
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