- BCGが世界のCMO300人に聞いた2026年の調査では、96%が「AIで業務全体が変わっている」と答えた。一方で、実際に業務を作り直しているのは約3分の1だった
- 先を行く会社は「どのツールを買うか」を問わなくなり、AIを業務の中で動かす仕組みに投資している。その中心は、ブランドのルールや事業の前提をAIに渡せる形にすること
- 作業をAIに任せられるようになると、CMOや経営陣は「どの顧客層に何を約束するか」を決めることに時間を使える。ただし、調査は大きな会社が中心で、段階ごとの成果の差は示されていない
こんにちは、アースダイバー代表の佐藤です。AIが広がって、ウェブマーケティングは取るべき戦略も、実行のやり方も変わりました。アースダイバーは、その新しい前提で戦略を考え、実行する仕組みまでつくる会社です(ご相談はこちら)。
「AIでマーケティングは変わる」と言う人は、この1年でずいぶん増えました。では、実際にどこまで変えられているのか。2026年6月、ボストン コンサルティング グループ(BCG)が、世界のCMO(最高マーケティング責任者)300人への調査をもとに、その実態をまとめています(BCG)。
先に、この記事で伝えたいことを3つにまとめます。
- 「AIで変わる」と言うCMOは多いのに、実際に業務を作り直したCMOは約3分の1しかいない
- 差がつくのは、どのAIツールを入れたかより、AIを業務の中で動かす「仕組み」をつくったか
- 仕組みの中心は、自社の戦略を言葉にしてAIに渡すこと。そうすると、人は「考えること」に時間を使えるようになる
私自身は、CMOという肩書きで働いたことはありません。ただ、アースダイバーの代表と兼任しながら、2nd Community株式会社で2年間、マーケティング担当の執行役員を務めました。その目線で、BCGの調査を紹介していきます。後半では、業務がどのくらい変わるのかの事例と、そのときCMOや経営陣の仕事がどう変わるのかを書き、最後に調査へのツッコミもまとめます。
目次
BCGの調査でわかったのは、「AIで変わる」と言うCMOと、実際に変えたCMOの差
BCGが毎年行っている調査で、今回は世界のCMO300人にアンケートをとり、50人にはインタビューもしています。消費者向け(BtoC)と企業向け(BtoB)の両方の会社が入っています。
いちばん大きな発見は、言っていることと、やっていることの差です。

96%のCMOが「AIでマーケティングの業務全体が変わっている」と答えました。ところが、実際に業務を作り直しているのは約3分の1。BCGはこう書いています。
CMOが口にしていることと、実際に築いたもののあいだの差。それこそが、2026年の本題だ。That gap between what CMOs claim and what they have built is the story of 2026.— BCG「Moving the Agentic Marketing Transformation from Illusion to Reality」(2026年6月)
役員の立場で見ると、よくわかる話です。経営会議で「AIで変える」と方針を出すのは1日でできます。でも、現場の業務を変えるには、手順を決め直し、担当を決め直し、人に覚えてもらう必要があります。
BCGは、CMOを3つの段階に分けています。分け方で面白いのは、本人の自己評価や予算の大きさを見ていないことです。見ているのは、AIが関わる業務の数、その業務をどこまで作り直したか、AIエージェントをどう連携させているか、生産性やROIにどれだけ効果が出ているか、の4つです。
ここでいうAIエージェントは、目的を渡すと、自分で手順を考え、情報を集めたり、ツールを操作したりしながら、いくつもの作業を続けて進めるAIのことです。ChatGPTに1回ずつ質問して答えをもらう使い方とは、任せられる範囲が違います。

- 業務ごと作り直した(32%):戦略づくり、顧客理解、制作、配信、改善など、複数の業務にAIエージェントを入れ、人が監督しながら回している。CMO全体の約8%は、一部の施策を複数のAIエージェントに自動で回させはじめている
- 一部の業務で広げている(26%):1〜2つの領域(多いのはコンテンツ制作と広告の最適化)で、試験導入を越えて広げている。ただ、人材とツールの構成が追いついていない
- 作業の手伝いにとどまる(42%):AIは、人の個別の作業を手伝う使い方にとどまり、広げることも、業務の進め方を変えることもできていない
「複数の業務にAIエージェントを入れる」と言われても、具体的な姿は思い浮かべにくいと思います。そこで、マーケティング部門が数十人いるBtoBの会社が、新しいサービスの需要をつくる場面を例に、3つの段階の違いを描いてみました。なお、これはBCGが示した例とは別の、弊社の想定です。

- 作業の手伝いにとどまる場合:広告、コンテンツ、展示会など、チャネルごとの担当者が、それぞれChatGPTで広告文の案を出したり、資料を要約したりしている。顧客の調査は年に1回、戦略の見直しは四半期ごとの会議で、月次の振り返りの資料は人が数字を集めて作る。仕事の流れは、AIを使う前と同じです
- 一部の業務で広げている場合:広告の部門では、AIが入札と広告の差し替えを回し、コンテンツの部門では、AIが記事や資料の下書きを作る。それぞれの部門は速くなったものの、顧客理解や戦略の見直しは前のままで、部門ごとの動きもつながっていません
- 業務ごと作り直した場合:AIエージェントが、商談の記録、問い合わせ、サイトの閲覧データ、競合の動きを毎日集めて、どの顧客層の関心が高まっているかをまとめる。それをもとに、CMOや事業の責任者が、どの顧客層に何を約束するかを決める。決まった方針に沿って、AIが顧客層ごとに広告、メール、資料の案を何十通りも作り、配信して、商談につながったかまで追い、次の打ち手を提案する。チームはチャネル別をやめて顧客層別に組まれ、人は方針を決め、AIが作ったものを確かめる
3つめの段階では、顧客理解、戦略、制作、配信、改善が、ひとつの流れとしてつながっています。前の工程の結果を、次の工程のAIが受け取って動くので、四半期に1回だった戦略の見直しを、週ごとに回せるようになります。人の仕事は、作業から「決めること」と「確かめること」に移ります。BCGが「戦略づくりや顧客理解にAIエージェントを入れている」と書いているのは、こういう状態だと私は理解しています。
なお、この調査は大きな会社に偏っているなど、気になる点もいくつかあります。それは最後にまとめて書きます。
差がつくのは、どのAIツールを入れたかより、AIを業務の中で動かす「仕組み」
この調査の中心にある主張は、ここです。BCGは、マーケティングのAI投資が3つの時期を経て進んできたと説明しています。

最初は、文章を作るツールやチャットボットなど、個別のツールにお金が使われました。次に、業務と業務のあいだをつなぐことに関心が移りました。そしていま、AIのツールやエージェント、業務の流れが一緒に動くようにする「仕組み」づくりが始まっている、という見立てです。
先を行く組織は、もう「どのツールを買うべきか」とは問わない。Organizations that are pulling ahead no longer ask, "Which tool should we buy?"— BCG(2026年6月)
では、仕組みとは具体的に何か。BCGは、データ、ブランドの判断基準、AIエージェント、共通の操作画面の4つの層で示しています。なかでも私が大事だと思うのは、2つめの「ブランドの判断基準」です。BCGは、AIのアシスタントが「その会社専用のエージェント」になるのは、この層で事業の理解を持たせたときだけだと書いています。

2つめの層に入れるのは、ブランドのルール、伝えてよいこととよくないこと、追うべき指標、AIが参照してよい情報源です。BtoBの会社なら、たとえば次のようなものです(内容は説明のための例です)。
- 誰に向けて:従業員100〜1,000人の製造業の、マーケティング部長
- 何を約束するか:導入から3か月で、商談につながる問い合わせを増やす
- 言わないこと:根拠のない「業界No.1」、他社を名指しした比較
- 追う指標:問い合わせの数より、商談になった数
- 参照してよい資料:自社の事例集、料金表、公開している調査
これは、本来マーケティング戦略で決めておくべきことです。ここが言葉になっていないと、AIが速く大量に作っても、作るたびに内容がばらつきます。逆に、ここを言葉にしてAIに渡しておけば、誰がAIを使っても、同じ方向のものが速く出てくる。私は、仕組みの中心はここだと考えています。
仕組みを動かすには、組織と人も変える必要があります。BCGによると、変革の先頭にいる20%のCMOは、チャネルごとに担当を分ける形から、事業の目標や顧客の層ごとに少人数のチームを置く形に変えていました。人材については、製薬、メディア、ファッションの業界の3人のCMOの「その人材は、どこにもいない。自分でつくるしかない」という言葉が紹介されています。
AIで業務の流れを作り直すと、かかる時間が縮み、成果も増える
では、仕組みを変えると、業務はどのくらい変わるのか。BCGの記事は会社名を伏せていて、具体的な成果はあまり書かれていません。そこで、2026年に公開された別の記事や調査から、変化の大きさがわかる事例を集めました。

1. 広告の制作が、2週間から最短4時間に:米Intuit(TurboTax)
確定申告ソフトのTurboTaxを持つIntuitは、SNS広告の制作で、広告の組み立て、文章の作成、成果の集計、広告の差し替えをAIで自動化しました。企画書から配信できる広告ができるまでが、2週間から最短4時間に。申告シーズン全体の施策でみても、約10週間から3週間近くに縮みました。1回目の試験はクリック率の目標に届きませんでしたが、2回目の試験では、AIを使ったグループの広告のクリック率が、比べたグループより38%高かったそうです(Adobe、2026年2月)。なお、この記事は、Intuitが使ったツールを提供しているAdobeが公開したものです。
2. 新人営業の立ち上がり期間が、約3か月から6週間に:世界的なIT企業
8,000人を超える営業担当が使う、AIの営業アドバイザーを入れた結果、新人営業の立ち上がり(オンボーディング)にかかる期間が縮みました(McKinsey、2026年7月)。会社名は伏せられています。
3. 見つかる商談の機会が、2〜3倍に:世界的な化学メーカー
時間が縮むだけではありません。同じMcKinseyの調査では、世界的な化学メーカーが、AIでまだ手をつけていない取引の領域を洗い出し、見つかった商談の機会がそれまでの2〜3倍になった例も紹介されています。
3つとも、作業の一部をAIに置き換えただけにとどまらず、業務の流れそのものを変えた例です。
ほかにも、国内外の先進企業27社と弊社の、あわせて28の事例をまとめた資料があります。こうした事例は、この「AI MARKETING JOURNAL」でも定期的に紹介していますので、自社の進め方を考えるときの参考になればうれしいです。
作業をAIに任せると、CMOと経営陣は「何を決めるか」に時間を使える
ここまでの話を、CMOや経営陣の立場から見直すと、いちばん大きな変化は、時間の使い方です。
これまでのマーケティング部門では、CMOや部長の時間の多くが、施策の進み具合の確認、代理店や他部署との調整、月次の報告づくりに使われてきました。業務の流れをAI前提で作り直すと、こうした作業の多くはAIが回せるようになります。空いた時間を、「どの顧客層に、何を約束するのか」「予算をどこに寄せるのか」を決めることに使えるようになります。
BCGによると、94%のCMOが、この2年でCEOからマーケティングへの期待が大きく高まったと答えています。一方で、BCGが米イェール大学経営大学院の研究者と書いた2026年7月の記事では、ガートナーによる数字として、CMOが市場での成長を引っ張るうえで「非常に有効」だとみているCEOやCFOは14%にとどまる、と紹介されています(BCG)。期待に応えるには、CMOが作業の管理から離れて、成長の打ち手を決める側に時間を使えるかどうかが問われていると思います。
そして、その戦略を考える作業そのものにも、AIは使えます。私がよくやるのは、AIとの壁打ち、AIに質問や反論を出させて考えを詰めることです。
- 選択肢を出させる:「来期、どの顧客層にマーケティング予算を寄せるべきか。商談の記録と過去の成果をもとに、根拠つきで3案」
- 反論させる:「この戦略の弱いところを、いちばん手ごわい競合の立場から3つ挙げて」
- 経営会議の目線で質問させる:「この計画を取締役会に出したら、どこを突かれそうか」
ひとりや少人数で考えていると、どうしても自分たちの思い込みから抜け出せません。AIに反論や別の見方を出させると、考える材料が一気に増えます。最後に決めるのは人ですが、決めるまでの時間は短くなります。
自社のマーケティング部門がどこまで進んでいるかを確かめる、6つの質問
BCGの4つの基準(AIが関わる業務の数、業務の作り直し、AIエージェントの連携、効果)に、この記事で大事だと書いた「AIに渡す自社の前提」と「組織と人」を加えて、マーケティング部門の責任者が自社に当てはめるための質問にしました。BCGの3つの段階とは一致しない、弊社の目安として使ってください。

- AIが関わっている業務は、どこまで広がっているか:顧客理解、戦略、企画、制作、配信、効果の測定のうち、制作と広告の運用だけになっていないか。なっているなら、顧客理解か戦略づくりのどちらかに、AIを入れる計画を立てます
- AIに合わせて、業務の進め方そのものを変えたか:部門の分担、承認の流れ、会議の頻度、代理店との分担が、AIを入れる前のままになっていないか。なっているなら、ひとつの事業かひとつの顧客層を選び、部門をまたいだ業務の流れをAI前提で作り直してみます
- 工程と工程が、AIでつながっているか:顧客の動きのデータが、企画や配信に自動で渡っているか。部門ごとにAIを使っていても、結果を人が手で受け渡していないか。手で渡しているなら、営業の管理の仕組み、マーケティングの自動化の仕組み、広告の管理画面などのあいだで、データの受け渡しをつなぎます
- AIに渡す「自社の前提」が、全部門と代理店で共有されているか:誰に何を約束するのか、言わないこと、追う指標、参照してよい資料が、言葉になって、どの部門や代理店のAIでも使える状態になっているか。なっていないなら、顧客層ごとに書き出して配ります
- AIの効果を、経営が見る数字で報告できているか:コストの削減だけでなく、商談の数、売上、施策にかかる期間で、AIを使う前と比べているか。比べていないなら、経営陣と効果を測る指標を先に決めます
- 組織と人の育て方を、AIに合わせて変えたか:チャネル別の組織のままになっていないか。全員がAIを使いこなせるように育てる仕組みがあるか。どちらもまだなら、ひとつの顧客層を担当する少人数のチームを試しに置き、各部門にAIの推進役を決めます
この調査の数字を読むときの、5つの注意点
最後に、調査へのツッコミをまとめておきます。
1. 調査の対象が、大きな会社に偏っている
マーケティングのAI投資が今年1,500万ドルを超えたと答えたCMOが43%もいます。日本の中堅・中小の会社が、数字をそのまま自社に当てはめるのは無理があります。
2. 3つの段階の詳しい判定基準は、公開されていない
BCGは「求めに応じて開示する」としています。どこで線を引いたのかがわからないので、32%、26%、42%は、BCGの基準で分けた結果として読む必要があります。
3. 段階ごとの成果の差は、数字で示されていない
3つの段階で、売上や利益がどれだけ違うのかは、記事に出てきません。「コスト効率が20〜30%改善」「マーケティングのROIが3倍」「施策を回す期間が10分の1」という数字はありますが、これはアンケートの結果とは別に、BCGの支援先で見られたこととして書かれています。
4. 売上への効果は、CMO本人の回答
「目に見える大きな売上の効果が出ている」と答えたCMOは、BtoCで31%、BtoBで20%でした。本人の回答なので、実際より高めに出ている可能性はあります。
5. BCGは、こうした変革を支援する立場でもある
「差を生むのは仕組みだ」という主張は、仕組みづくりを支援するBCGの事業とも重なります。もっとも、戦略から実行の仕組みまでを支援している弊社も同じです。主張をそのまま受け入れず、自社に当てはめて確かめることをおすすめします。
とはいえ、大きな方向には私も賛成です。AIのツールは、どの会社でも同じものが手に入るからです。
まとめ:AIで差がつくのは、戦略を言葉にして、業務の流れを作り直せるか
BCGの調査からわかるのは、「AIで変わる」と言うことと、実際に変えることのあいだに大きな差があること。そして、差がつくのはツールより、AIを業務の中で動かす仕組みだということです。
そのうえで私は、仕組みの中心は、自社の戦略を言葉にしてAIに渡すことだと考えています。そうすれば、実行の多くをAIで回せるようになり、CMOや経営陣は「何を目指し、誰に何を約束するか」を決めることに時間を使えます。
よくある質問:AIエージェントの意味と、どこから始めるか
Q. AIエージェントは、ChatGPTのようなAIと何が違うのですか?
ChatGPTに質問して答えをもらう使い方では、人が1回ずつ指示を出し、結果を受け取って、次の作業を自分で進めます。AIエージェントは、目的を渡すと、自分で手順を考え、情報を集めたり、ツールを操作したりしながら、いくつもの作業を続けて進めます。図3の「業務ごと作り直した場合」のように、工程と工程をつないで動かせるのが違いです。
Q. どの業務から作り直すのがいいですか?
成果を数字で測れて、いくつかの部署にまたがる業務がおすすめです。たとえば、問い合わせを集めて商談につなげる業務は、マーケティングと営業にまたがり、商談の数で効果を確かめられます。その前に、図7の4つめ、AIに渡す「自社の前提」を書き出しておくと、作り直した業務の中でAIが作るものの方向がそろいます。
Q. 「自社の前提」は、どのくらい細かく書けばいいですか?
最初は、図5の5つの項目(誰に向けて、何を約束するか、言わないこと、追う指標、参照してよい資料)を、顧客層ごとにA4で1枚くらいにまとめれば十分だと考えています。AIに使わせてみて、ずれた答えが出たところを書き足していくと、だんだん自社に合ったものになります。
参考:BCG「Moving the Agentic Marketing Transformation from Illusion to Reality」(2026年6月)/Adobe「Real-time insights and on-demand creative for TurboTax」(2026年2月)/McKinsey「The future of B2B sales」(2026年7月)


