- 営業担当者が実際に売ることに使っている時間は、全体の4割ほど。残りの準備・記録・書く仕事が、AIでいちばん変えやすい
- 海外では、営業担当者をAIで置き換える売り込みは2026年に後退し、問い合わせへの素早い対応にAIを使う流れに移ってきた
- 20〜30人の会社なら、下調べ・提案書・商談の記録・フォローのメールなど、7つの仕事から1つ選んで始めるのが現実的
こんにちは、アースダイバー代表の佐藤です。AIが広がって、ウェブマーケティングは取るべき戦略も、実行のやり方も変わりました。アースダイバーは、その新しい前提で戦略を考え、実行する仕組みまでつくる会社です(ご相談はこちら)。
「AIで業務を良くしたいが、何から手をつければいいかわからない」。社員20〜30人ほどの会社の社長から、こうしたご相談をいただくことが増えました。そこで、業務のカテゴリーごとに、AIで具体的に何がどう変わるのかをまとめる連載を始めます。1回目は、営業です。
営業とAIというと、「提案書をAIで作る」「メールをAIに書かせる」といった話がよく出てきます。もちろん役に立ちますが、それだけなら、どこにでも書いてある話です。この記事では、海外で2026年に起きた「明暗」から話を始めます。
先に結論を言うと、営業でAIが成果を出しているのは、営業を増やす使い方より、取りこぼしを減らす使い方です。AIに営業のメールや電話を大量にかけさせる「攻めの自動化」は、海外でつまずきました。一方で、来た問い合わせや電話を逃さない「守りの自動化」は、はっきり数字が出ています。20〜30人の会社が最初に手をつけるべきなのも、こちらだと考えています。
目次
海外で分かれた明暗:攻めの自動化はつまずき、守りの自動化が伸びた
つまずいた:AIに営業をさせる「AI営業担当者」
海外では、ここ数年で「AI営業担当者(AI SDR)」と呼ばれる製品が次々に登場しました。見込み客を探し、営業のメールを送り、商談の約束を取るところまで、AIが自動でこなすという触れ込みです。
ところが2026年、この流れは大きく変わりました。米国のアナリストのAdam Schoenfeld氏が2026年10月22日にまとめたところでは、次のようなことが起きています(Adam's GTM Report)。
- 「人を雇うのをやめよう」と打ち出していた米国のArtisanは、2026年8月にその言い方をやめ、初めて人の営業担当者を採用した
- 営業担当者の置き換えをうたっていた11xは、2026年3月に「AIは営業チームを置き換えない」と発信し、10月には問い合わせへの対応を前面に出した
- AI営業担当者のAiSDRの創業者は、1,153社の顧客のうち80%が「失敗した代理店と同じ結果を、速く安く得ただけ」だったと認めた。撤退したLunaは、営業のメールへの取り締まりも理由に挙げた
伸びた:来た問い合わせと電話を逃さない使い方
一方で、数字が出ているのが、来た問い合わせや電話に、すぐ応える使い方です。同じ記事では、次のような例が紹介されています。
- 米国のVercelでは、問い合わせの見きわめに約10人かかっていた仕事を、AIを入れて約1.25人で回せるようになった。かかる費用は、年に約5,000ドルだという
- ElevenLabsでは、問い合わせの見きわめにかかる時間が、人の担当者の2日から、中央値で4分になった
電話でも、同じ動きが始まっています。monday.comは2026年10月19日、営業の電話をAIがかけたり受けたりする「Harmony」を発表しました。英国の自動車ローンの仲介会社Bright Car Financeでは、審査に通った申込者にAIがすぐ電話をかけ、話を聞いて見込みのある人を見きわめ、その8割を人の担当者にそのまま電話でつないでいます。成約した件数は、1年たたないうちに9%増えたといいます(monday.com)。ただし、これは1社の発表で、測り方は公開されていません。
Vercelの例を、数字で並べるとこうなります。

二つの使い方の違いは、相手にあります。攻めの自動化は、相手がまだ自社を知らない状態で、AIが大量に連絡します。AIが書いたありきたりなメールは、すでにあふれています。米国のベンチャーキャピタルのMadronaの記事でも、個別に書いたようなメールはもう珍しくなく、メールは無視されやすい、と指摘されています(Madrona)。
守りの自動化は、相手のほうから来た連絡に応えます。相手は、すでに興味を持っています。足りなかったのは、すぐに応える人と時間でした。
中小企業の営業の、いちばん大きな損は「返していない連絡」
守りの自動化が効くのは、そもそも取りこぼしが大きいからです。営業のデータの会社Clayが、AIを使って6,346件のデモ申し込みのフォームに問い合わせたところ、約3分の2には、返事がありませんでした(Adam's GTM Report)。
20〜30人の会社では、営業の担当者が外に出ていれば、電話には出られません。商談が続けば、問い合わせのメールへの返事は翌日、翌々日になります。新しいお客さんを探す前に、来た連絡を逃さない。AIは、ここでいちばん力を発揮します。
AI電話:出られない電話を、AIが受ける
日本の中小企業で、いま現実的に使えるのが、電話をAIが受ける仕組みです。
いまのAI電話は、電話をかけてきた人の話をAIが聞き取り、用件を整理して担当者に知らせたり、よくある質問にはその場で答えたりできます。国内では、AI電話のIVRy(アイブリー)が、2026年5月に借入などで総額45億円を調達しています。AIが電話を受け付け、振り分け、必要に応じて答え、内容を顧客管理の仕組みとつなげられることをうたっています(起業手帳)。
20〜30人の会社なら、使い方はたとえばこうです。
| 場面 | いま | AI電話を入れると |
|---|---|---|
| 営業の担当者が外出中 | 電話に出られず、折り返しを忘れることもある | AIが用件と連絡先を聞き取り、担当者のスマホに要約を送る |
| 営業時間の外 | 留守番電話。聞き返すのに時間がかかる | AIが用件を聞き、急ぎかどうかを分けて朝に一覧で届ける |
| 営業の電話・売り込み | 受けた人の手が止まる | AIが用件を聞いて、取り次がない電話を分ける |
| よくある問い合わせ | 料金や営業時間を、毎回人が答える | AIがその場で答え、答えられない内容だけ人に回す |
逆に、AIに営業の電話をかけさせる使い方は、慎重に考えたほうがいいと考えています。米国では、連邦通信委員会(FCC)が2024年2月、AIで作った声で電話をかけることにも、録音の音声と同じ規制がかかると判断し、原則として相手の事前の同意が要るとしました(Wiley)。日本でも、知らない会社からのAIの電話に、相手が良い印象を持つとは限りません。先ほどのBright Car Financeのように、相手から申し込みがあったあとの電話に使う形が、いまは現実的です。
20〜30人の会社が変えられる、営業の流れ
では、営業の流れの中で、どこにAIを入れるか。問い合わせから受注までの流れで見ると、こうなります。

いまの流れでは、問い合わせが来てから商談までに、待ち時間と、同じ内容を何度も書き写す作業がはさまります。担当者が空くまで返事を待ち、日程を何往復かで調整し、商談のあとに記録を書き、フォローのメールを一から書く。
AIを入れた流れでは、問い合わせや電話にはAIがすぐ応え、相手の状況を聞いたうえで、日程を入れるか、要約をつけて人に引き継ぎます。商談の前には、相手の会社の情報と聞くべき質問を1枚にまとめ、商談のあとは、録音から記録とフォローのメールの下書きまでを作ります。人がやるのは、商談そのものと、送る前の確認です。
流れの中で、AIに任せる仕事と、人が持つ仕事
| 仕事 | AIに任せること | 人が持つこと |
|---|---|---|
| 問い合わせ・電話への最初の対応 | すぐに返事をし、用件と状況を聞き取る | 料金や約束ごとの中身、見込みの判断 |
| 商談前の下調べ | 相手の事業・最近の動き・聞くべき質問を1枚にまとめる | 古い情報や、別の会社の情報が混ざっていないかの確認 |
| 提案書・見積書 | 商談のメモと過去の資料から、骨組みと文面の下書きを出す | 金額・条件・納期 |
| 商談の記録 | 録音から、要点・宿題・次の日程を書き出す | 言っていないことが書かれていないかの確認 |
| フォローのメール | お礼と次の提案の下書きを出す | 自分の言葉で直して、送る |
| 受注・失注の振り返り | 記録をまとめて読み、失注の理由やよく出る質問を整理する | 現場の感覚と照らした、次の打ち手 |
資料づくりの時間は、実際に減っています。営業・営業企画の正社員293人に聞いた2026年5月の調査では、資料づくりに生成AIを使っている人のうち、約6割は、かかる時間が3割以上減ったと答えています(PR TIMES)。

海外でつまずいた3つの落とし穴
海外の失敗からは、小さな会社でも気をつけたい落とし穴が見えてきます。
- 自社のメールの評判を落とす:AIが自社のドメインから大量にメールを送ると、迷惑メールと判定され、ふだんのお客さんへのメールまで届きにくくなるおそれがあります。Madronaの記事でも、文面や狙う相手のせいにしがちだが、本当の問題はドメインの評判であることが多い、と指摘されています
- データが整っていないまま、AIを動かす:米国のLaunchDarklyでは、顧客管理の仕組みの中に同じ会社の記録が重複していたため、AIが既存のお客さんに新規の営業のメールを送り、返信はほぼ0%でした(Adam's GTM Report)。AIを入れる前に、顧客の一覧を整えておく必要があります
- 人を減らすことを目的にする:Artisanや11xなど、営業担当者の置き換えをうたっていた会社が、打ち出し方を変えています。AIで浮いた時間を何に使うかを先に決めておかないと、成果につながりません
始め方:まず、取りこぼしを数える
20〜30人の会社なら、次の順で始めるのが現実的です。
- 1か月の取りこぼしを数える。出られなかった電話、返事が翌日以降になった問い合わせ、商談のあとフォローできていない見込み客の数を数えます。ここが、AIで取り戻せる売上の大きさです
- いちばん大きい取りこぼしから、ひとつ選ぶ。電話なら AI電話、問い合わせのメールなら返事の下書き、フォローなら商談の記録から、という具合です
- 4週間だけ試す。返事までの時間、商談につながった数を、前と比べます
- うまくいったら、流れの次の仕事に広げる。下調べ、提案書、振り返りへと、図2の流れに沿って広げます
全員にAIのアカウントを配って終わりにすると、使う人と使わない人に分かれるだけで、営業の流れは変わりません。取りこぼしという、数えられる損から始めるのが、小さな会社ではいちばん確かです。
気をつけたいこと
- お客さんの情報の扱い:会社で使うAIは、入力した内容が学習に使われない設定や契約にします。電話の録音や名刺の情報を入れる前に、何を入れてよいかを社内で決めておきます
- AIだと伝える:AIが電話やチャットで応えるときは、相手にAIだとわかるようにしておきます。あとから知って、不信感を持たれることを防げます
- 送る前に、人が確かめる:AIは、金額や条件をもっともらしく間違えることがあります。お客さんに出すものは、必ず人が目を通します
弊社の見解:AIで営業を増やす前に、取りこぼしを減らす
AIの話になると、「AIに営業をさせれば、営業担当者を増やさなくて済む」という期待が出がちです。ただ、2026年の海外の動きを見る限り、その期待はまだ早いと考えています。成果が出ているのは、相手から来た連絡を逃さず、すぐに、正しく応える使い方です。
20〜30人の会社にとって、問い合わせや電話を1件でも取りこぼさないことは、新しい見込み客を探すより、ずっと確かな売上につながります。AIで取りこぼしを減らし、浮いた時間を、お客さんと会うことと、どこに力を入れるかを考えることに回す。営業にAIを入れる順番は、これがいいと考えています。
次回は、経理・総務の仕事を取り上げる予定です。
参考:Adam's GTM Report「AI SDR's Second Wave」(2026年10月22日)/monday.com「Harmony」の発表(2026年10月19日)/Madrona(2026年10月22日)/起業手帳(IVRyの資金調達)/Wiley(FCCの判断、2024年2月)/PR TIMES(営業職293人への資料作成の調査、2026年5月)


