- ロイターによると、AIが読みやすいページづくり・AIがよく引用するサイトへの有料の掲載・Redditなどへの投稿で、AIの答えを動かす手法が、陣営に売り込まれている。手法は、企業のAI検索対策とほぼ同じ
- ニュースをAIで調べる人は、世界で週に10%と、まだ一部。一方で、選挙の質問へのAIの答えは、3割近くが不完全か不正確だったという調査もある
- AIの会社は、公式の情報へ案内する対策を強めている。企業が学べるのは、事実を公式に出しておくことと、お金を払った掲載を隠さないこと
こんにちは、アースダイバー代表の佐藤です。2026年10月26日、ロイター通信が、米国の中間選挙で、AIの答えを候補者に有利にする手法が陣営に売り込まれていると報じました。ChatGPT・Claude・Geminiなどが有権者に候補者を勧めるよう、ネット上の情報を整える手法です。報道では「GEO(生成エンジン最適化)」と呼ばれています。
弊社は、企業がAIの答えにどう挙がるかを測り、改善を支援しています。報じられた手法の多くは、企業のAI検索対策とほとんど同じです。選挙という、影響の大きい場で同じことが始まっているのは、企業のマーケティングにとっても他人事ではありません。
この記事では、ロイターの報道の中身を確かめたうえで、AIの会社・研究者・調査機関・規制する側の、それぞれの見方を並べます。最後に、企業が何を学べるかを、弊社の見解としてまとめます。政治の立場には触れません。
先に、ポイントを3つにまとめておきます。
- ロイターによると、AIが読みやすいページづくり・AIがよく引用するサイトへの有料の掲載・Redditなどへの投稿で、AIの答えを動かす手法が、陣営に売り込まれている。料金は、AIに勧められる割合と結びついている。手法は、企業のAI検索対策とほぼ同じ
- ニュースをAIで調べる人は、世界で週に10%と、まだ一部。一方で、選挙の質問へのAIの答えは、3割近くが不完全か不正確だったという調査もある。研究者は、少しの書き込みでもAIの答えが動くと警告している
- AIの会社は、公式の情報へ案内する対策を強めている。企業が学べるのは、事実を公式に出しておくことと、お金を払った掲載を隠さないこと、の2つだと考えている
目次
ロイターが報じたこと
ロイターの記事は、Mike Stone記者による独自の報道です。ロイターが手に入れた資料と、関係者への取材にもとづいています(The Spokesman-Review に転載されたロイターの記事)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が見つかったか | マサチューセッツ州知事選の候補の1人に向けた戦略の資料。ChatGPT・Claude・Geminiなどが、主な争点でこの候補を勧めるようにする内容 |
| 誰がつくったか | テキサス州オースティンの会社Visigent。政治の陣営の顧客が6つあるとしている(名前は非公開) |
| 料金 | 「AIに勧められる割合」と結びついている。政治の顧客は月5,000〜50,000ドル。資料には、成功報酬として最大20万ドルの記載もある |
| ほかのサービス | 候補者を支援する団体Run for Somethingが、候補者向けにAIの答えを見張るサービス(CampSight)を月9〜250ドルで出している。順番待ちは300以上 |
| 有権者の使い方 | 市民団体National Conference on Citizenshipのトップは、投票を決めるときに候補者のことをAIに聞いた有権者は、約25%だと話している |
報じられた手法
- AIが読みやすい政策のページを、何百もつくる
- AIがすでによく引用しているサイトに、お金を払って載る
- RedditやYouTubeに投稿する。資料には、RedditはAIが情報を取ってくるときに重く扱われる、と書かれている
- 主なAIが政治の質問にどう答えるかを追い、答えが候補者の主張に近づくまで中身を直す
この報道で、わかっていないこと
- もとになった戦略の資料は1件で、この陣営が実際に実行したかは書かれていない
- AIの答えが本当に変わったかは、確かめられていない。料金や効果は、売る側の会社の説明
- 約25%という数字は発言で、もとの調査は示されていない
- OpenAI・Anthropic・Googleなど、AIの会社のコメントは入っていない
手法は、企業のAI検索対策とほぼ同じ
報じられた手法を、企業のAI検索対策と並べると、次のようになります。

AIがどんなページを引用し、どんなブランドの名前を挙げるかは、研究でも少しずつわかってきています。くわしくは、AIに引用されるページと、名前が挙がるブランドの研究にまとめています。比較サイトへの有料の掲載の考え方は、記事広告をすすめられたときのQ&Aで答えています。
視点1:有権者は、どれくらいAIに聞いているのか
AIで情報を調べる人は増えていますが、ニュースや政治の情報に使う人は、まだ一部です。
米国のピュー・リサーチ・センターが2026年2月に5,119人に聞いた調査では、AIのチャットボットを使ったことがある人は49%でした。ただ、ニュースを得るのに使う人は13%にとどまります。

世界でも同じ傾向です。ロイター研究所の「Digital News Report 2026」(48の市場、9万7,520人)では、ニュースで週に1回以上チャットボットを使う人は10%で、前年の7%から増えました。35歳未満では16%です。チャットボットの答えを信頼する人は20%で、ニュース全体の37%より低くなっています。

AIの会社の側の数字もあります。Anthropicが、2026年9月の米国のClaude.aiの会話約25万件を調べたところ、政治・政策・社会問題にふれた会話は約5.75%でした。投票先を聞く会話は約0.01%、1万件に1件ほどです。

出典:Pew Research Center・Reuters Institute・Anthropic
数字はまだ小さいですが、若い世代から増えています。ロイター研究所が紹介したChartbeatのデータでは、2024年11月から2025年11月に、Googleの検索から報道サイトへの流入が、世界で33%、米国で38%減っています(Reuters Institute)。人が情報に出会う入口が、検索からAIへ少しずつ移っている、と読めます。
視点2:AIの選挙の答えは、どれくらい正確か
選挙の質問へのAIの答えは、良くなってはいるものの、まだ間違いがあります。
- 2024年:Proof Newsなどの「AI Democracy Projects」が5つのモデルを試したところ、答えの半分以上が不正確と判定された(PBS)
- 2026年9月:英国の研究機関ISDが、6つのモデルに10州の投票の質問をしたところ、29%が不完全・不正確・古い答えだった。正確だった割合は、モデルによって61%から89%まで分かれた(The Hillの配信記事。ISDの原文は弊社で確かめられていない)
- 2026年8月:States United Democracy Centerの調査では、事実の誤りは、3つの州で0になった。一方で、ChatGPTは、知事選の予備選の候補者を、88.9%の割合で一部しか挙げなかった(CyberScoop)

MITで選挙とAIの答えを調べているAdam Berinsky氏は、AIが自信を持って答えても、それが正しいとは限らない、と話しています(The Boston Globeに転載されたNew York Timesの記事)。
答えの「誤り」は減ってきています。それでも、誰の名前を挙げ、誰を挙げないかには、まだばらつきがあります。弊社の見方では、陣営に売り込まれている手法が狙っているのは、この「誰が挙がるか」の部分です。
視点3:AIの答えは、外から意図して動かせるのか
研究者は、AIの答えは外から動かせる、と警告しています。
| 研究・調査 | わかったこと |
|---|---|
| GEOの論文(Aggarwal氏ほか、2023年) | ページの書き方を変えると、AIの答えの中での見え方を最大40%上げられた(arXiv) |
| NewsGuard(2025年3月) | ロシアの宣伝を広める「Pravda」ネットワークは、2024年に360万本の記事を出した。主要な10のAIは、その主張を33%の割合で繰り返した(NewsGuard) |
| 米国の非営利団体CDT | AIが答えをつくるときに読むウェブを、偽の情報で埋める手口を指摘。ネット上の情報が少ない地方の選挙ほど狙われやすい(CDT) |
ロイターの記事では、Run for SomethingのJordan Haines氏が、昨年の夏に見張りを始めたころは、Redditに書かれたことが翌日にはAIの答えに出ていたと話しています。一方で、今年は、恐れていたことはあまり起きていない、AIは信頼できる情報とそうでない情報をうまく見分けている、とも話しています。
弊社の見方では、動かせる余地があるのは、とくに情報が少ないところです。CDTが地方の選挙を例に挙げたように、ネット上の情報が少ない分野ほど、少ない書き込みで答えが変わりやすいと考えます。中小企業の分野にも、同じことが言えるはずです。
視点4:AIの会社は、どう備えているか
主なAIの会社は、2026年の選挙に向けて、公式の情報へ案内する対策を出しています。
| 会社 | 主な対策 |
|---|---|
| Anthropic(2026年10月14日) | 投票の登録・投票所・日程の質問には、超党派の案内サイトを示す。10月後半からは、米国のClaude.aiで、非営利団体Democracy Worksの公式の投票情報を答えに使う。外国の偽ニュースサイトがClaudeで記事をつくっていた例を見つけ、アカウントを止めた |
| OpenAI(2026年5月27日) | 開票の速報はAP通信、投票の情報はDemocracy Worksと組む。選挙運動のメッセージを大量につくることは禁止。選挙の期間中は、政治広告を出させない |
| Google(2026年9月9日) | 検索のAIモード・AIによる概要とGeminiで、州や地方政府の公式の情報とAP通信の速報を示す。選挙広告には、本人確認と、誰が費用を払ったかの表示を求める |
Anthropicは、外部の評価も公表しています。ISDなどの評価では、Claudeは1回のはっきりした悪い依頼は断るものの、無害に見える小さな作業に分けた悪意のある動きは見逃すことがある、と指摘されています。
どの会社も、投票の手続きのような事実は公式の情報へ案内しています。一方で、「誰を勧めるか」に関わる答えを、陣営の働きかけからどう守るかは、まだはっきりしていません。
視点5:規制する側は、どう見ているか
- 米国の連邦選挙委員会(FEC):2024年9月、AIについて新しい規則はつくらないと決めた。いまの詐称を禁じる規定は、技術の種類に関係なく当てはまる、という立場(FEC)。AIの答えへの働きかけを直接扱う規則はない
- 米国の議員:2026年5月、超党派の議員が、AIの会社7社に書簡を送った。Reddit・Wikipediaなどを通して、候補者の描かれ方を動かそうとする動きを懸念し、11月より前の監査の公表や、出典の表示を求めている(Lawler議員の書簡)
- 日本:公職選挙法には、生成AIを使った選挙運動を特に定めた規定はない(AdverTimes)。企業の商品やサービスについては、広告であることを隠した宣伝が、2023年10月から景品表示法で規制されている(消費者庁)
選挙でも企業でも、AIの答えに働きかけること自体を禁じる決まりは、いまのところありません。問われているのは、お金を払った情報を隠しているかどうかです。
弊社の見解:企業が学べること
ここまでの事実をふまえた、弊社の見解です。
1. AIの答えをめぐる競争は、選挙でも企業でも同じ仕組みで動いている
報じられた手法は、企業のAI検索対策とほぼ同じでした。料金がAIに勧められる割合で決まる、という点も、弊社が診断で測っている出現率と同じ考え方です。選挙という影響の大きい場に売り込まれていることは、AIの答えに挙がることの価値が認められてきた表れだとみています。
2. 弊社は、量より事実と出典が効くと考える
研究では、ページの書き方や、引用されやすいサイトでの言及が、AIの答えに効くことがわかっています。NewsGuardの調査のように、記事の量で答えが動いた例もあります。一方で、AIの会社は、信頼できる情報を見分ける力を高めています。ページを何百もつくったり、投稿を増やしたりするやり方は、AIの側の対策が進むほど効きにくくなると考えます。企業がやるべきは、料金・実績・事例のような事実を、公式のサイトに数字で書いておくことです。
3. お金を払った掲載は、隠さない
比較サイトへの掲載や記事広告は、AIに読まれる場所を増やす点で、意味があります。ただ、広告であることを隠すと、日本では景品表示法の規制にかかります。見つかったときの信用の損も大きくなります。米国の議員がAIの会社に出典の表示を求めているように、AIの答えの裏にある働きかけには、厳しい目が向けられ始めています。
4. まず、自社がどう答えられているかを測る
報じられた手法にも、AIが政治の質問にどう答えるかを追う工程が入っていました。企業も同じで、自社の分野の質問でAIが誰を挙げているかを知らないまま、対策は決められません。測り方は、AI検索診断の記事にまとめています。
よくある質問
Q. 企業がAIの答えに働きかけるのは、問題ありませんか?
事実を公式のサイトに書き、引用されやすい場所で正しく紹介されるように努めるのは、通常のマーケティングの範囲だと考えています。問題になるのは、お金を払った情報を隠すことや、自作自演の書き込みです。
Q. 日本の選挙でも、同じことは起きますか?
日本での具体的な報道は、まだ見当たりません。ただ、手法そのものは国を問わず使えるので、今後の選挙で注目されると考えています。
Q. AIの答えを、自社に有利に変えることはできますか?
公式の情報を整え、第三者の信頼できる場所で紹介されることで、答えが変わる例はあります。ただ、AIの答えは質問やAIの種類で変わり、時間とともにも変わるので、変わったかどうかを測り続けることが大切です。
参考:The Spokesman-Review「U.S. political candidates tailor messages for AI models used by voters」(Reuters、2026年10月26日)/Anthropic「Preparing for the 2026 US midterms」(2026年10月14日)/OpenAI「2026年の選挙情報と保護策」(2026年5月27日)/Google「How we're supporting the 2026 U.S. midterm elections」(2026年9月9日)/Pew Research Center「Americans and AI 2026」(2026年6月17日)/Reuters Institute「Digital News Report 2026」/PBS「Chatbot info on U.S. elections is inaccurate, misleading」(2024年2月27日)/CyberScoop(2026年8月5日)/NewsGuard(2025年3月6日)/Aggarwal et al.「GEO: Generative Engine Optimization」/FEC(2024年9月19日)/消費者庁「ステルスマーケティングに関する景品表示法の規制」


